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「韃靼の馬」上巻

「韃靼の馬」辻原 登著 集英社文庫

上巻を読み終えました。今までに読んだ、馬賊満州、建国大学、中野学校、権力争いに巻き込まれ、お金に困って、有名な朝鮮の画家が、写楽という浮世絵師として短期アルバイトに来た話、とオーバーラップします。朝鮮通信使随行者が、朝鮮人参の密輸をしていたエピソードも出てきます。

韃靼とはタタール。トクキメスタンの汗血馬が名馬として有名で、通常の馬の3倍の速さで走るとか。遊牧騎馬民族が4、5世紀頃から日本に渡来していて、栗原慎一郎氏の説では、これが1番の近道で、遊牧騎馬民族が押さえていたとか。一般商人は使えなかったのでは。特別なパスポート代わりになる銀の札を見せる者以外は。

この本には地図は載っていませんが、p72に

「釜山から漢城まで、通常17日かかるところ、「銀の道」を馬で走れば5日で着く。」と小説の設定上では書かれています。確かに秘密の抜け道はあってもおかしくないですね。匪賊が多いのは大陸のお約束ごとです。誘拐も多い。

そして大陸ではやはり4か国語くらいできないと、命に関わる場面も。主人公の阿比留克人は、日本語、朝鮮語、阿比留文字、漢語に堪能で、武道も達人、おまけにイケメン設定ときています。新聞小説だったそうですからね。

建国大学の卒業生を描いた本もそうでしたが、完璧なバイリンガルトリリンガルであればあるほど、二重スパイにならざるを得なくて、命懸けで、ハラハラするんです。この本も、対馬藩主の宗家に敗れて津軽に流された柳家の一人息子が朝鮮に渡り、系図を偽造してスパイになっています。上巻最後に、主人公と柳成一が対決して、勝負は阿比留が決するのですが、新井白石直々にスカウトされている主人公なので、釜山の倭館に亡命することになります。身代わりの囚人が処刑されたわけです。

下巻では、騒動に巻き込まれた主人公の阿比留克人が、金次東と改めて半島に渡り、さらに吉宗に汗血馬を献上したいという対馬藩主の命により、タタールへ行くらしいです。やっぱり気になるので、下巻を注文しました。

面白かったです。小説にならなくても、現実に両国を行ったりきたりの人生は、4世紀くらいからあっただろうと思います。契丹や遼、隋、唐時代も、大陸で戦争があれば、逃げてきた人々はいたらしいですし。なにしろササン朝ペルシアから亡命王族が渡来していたことが日本書紀に書かれているわけですから。

この方が、あらすじを纏めていらっしゃいます。

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